10月の学会発表

2014年10月は、事務局を担当している北陸心理学、そして初めての参加となった日本ポジティブサイコロジー医学会の2つで発表をおこないました。

北陸心理学会では、昨年度、指導教員を担当した第二著者の学生さんが卒業論文として提出されたデータを再分析して発表をおこないました。同じ大学に在籍する他者がタングラム課題をうまく解いている場面を動画で見た後、自分も同じようにうまく解けるのではないかと感じて課題固有の自己効力感が変化するかどうかを検討しました。その結果、もともと持っている特性的自己効力感の低かった人は、他者の成功を観察したことによって課題固有の自己効力感が上昇しましたが、特性的自己効力感の高かった人は課題固有の自己効力感に変化はなかったことが分かりました。自己効力感の低く、自分に自信がない人には、身近な存在の他者の成功経験を見たり聞いたりすることで、自分にもできるかも、と前向きになれるかもしれないことを示唆しています。毎年、心理学研究室の先輩方から有意義なコメントを頂戴し、いつもながら先輩の偉大さを感じました。

日本ポジティブサイコロジー医学会では、1週間ポジティブ日記を実施したことによって、感情や認知、ストレス反応に変化が生じるかどうかを検討しました。今回の実験では、統制群には感情を交えずに客観的事実としての行動観察の記録を1週間つけてもらいました。その結果、ポジティブ感情については両群とも変化がみられず、ネガティブ感情については介入群のみ低下していました。文章完成法の記述に関しても、介入群はポジティブな記述が増加していました。しかし、介入群・統制群とも、ストレス反応が全体的に低下しており、両群とも日記の効果が認められるという結果となりました。ポスター発表ではたくさんの方から貴重なコメントをいただき、あっという間のポスタービューイングの時間となりました。今後は統制群の設定について再考していきたいと思います。

また、今回初めて参加した学会でしたが、臨床現場で活躍されている医師が多く参加されており、実践場面においてポジティブ心理学は強く求められていることを感じました。私の研究には、精神科ではない他領域の医師から患者さんの心理的ケアの一環としてポジティブ日記を導入したいとの意見も寄せられ、関心の高さを肌で感じることができました。他大学の院に進学した卒業生とも久しぶりに会ってお話をすることができ、がんばっている様子を知ってとても嬉しく感じました。とても有意義な学会でした。

  • 荒木友希子・柳沢顕恵 2014    成功の代理体験が課題固有の自己効力感に及ぼす影響 北陸心理学会第49回大会発表論文集、64-65.
  • 荒木友希子・新井瑠夏 2014    ポジティブ日記によるポジティブ感情の生起がストレス反応および認知に与える影響 第3回日本ポジティブサイコロジー医学会学術集会プログラム抄録集,31.  ポジティブサイコロジー医学会ポスターPDF

ストレスと上手につきあう方法

先週末、金沢総合健康センターのからだリセット教室の講師を担当し、「ストレスと上手につきあう方法」というテーマでお話をしてきました。筋弛緩訓練の実技をした後、認知行動療法の観点からストレスマネジメントの説明をおこないました。参加者は高齢の方が多く、とても真面目に一生懸命受講されていました。学ぶ意欲をいつまでも持ち続けていられるのは素晴らしいですね。昨年度も同じ講座を担当したのですが、今年度もまた受講される方が何人かおられ、うれしく思いました。しかし、講義を担当するといつも伝えたいことが多すぎて、最後の10分くらいはものすごい早口になってしまうのですが、今回もまたしかり・・・ゆっくりゆったり優雅に話せるようになりたいものです。

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9月の学会発表

2014年9月は、二つの学会でポスター発表をおこないました。どちらの研究も聴覚障害に関わるものですが、内容は全く違うものなので、頭の中を切り替えるのになかなか苦労しました。

日本心理学会第78回大会では、卒業生の平澤くんが卒論としておこなった聴覚障害者とコーダのストループ検査結果について報告しました。昨年度に引き続き、ストループ研究で著名な先生からコメントをちょうだいし、大変勉強になりました。学会発表で終わらせるのではなく、きちんと論文という形にしたいと改めて強く思いました。

日本特殊教育学会第52回大会では、年長さんの人工内耳装用児を対象とした半年間の音楽訓練について事例報告をおこないました。人工内耳による音楽聴取について、ここ数年、かなり力を入れて勉強しているのですが、人工内耳を通したらどんなふうに音楽が聴こえるのか、音楽教室の先生と一緒に試行錯誤しながらトレーニングした様子を動画も交えて報告しました。日本特殊教育学会は初めての参加かつ発表のため、かなり緊張したのですが、聴覚障害教育の領域での大御所の先生から有意義なご意見をたくさんいただき、勇気をふりしぼって発表にトライしてよかったと思いました。はじめてお目にかかった方とお知り合いになれたり、収穫の多い学会でした。来年度の仙台でもぜひ発表したいところですが、発表できるデータがあるかどうか・・・ がんばってデータをとって来年度も発表したいと思います。

  • 荒木友希子・平澤辰憲 2014 聴覚障害者およびコーダのストループ干渉能力に関する検討 日本心理学会第78回大会発表論文集,612.(同志社大学, 2014.9.10.)
  • 荒木友希子・浅地徹也 2014 人工内耳装用児を対象とした音楽訓練に関する事例研究 日本特殊教育学会第52回大会発表論文集,113.(高知大学, 2014.9.22.)

今年度の学会発表

秋に開催される学会のエントリーをおこなう時期になりました。今年は6件の発表を予定しています。いくつかの出張も予定されており,忙しい秋になりそうです。

  • UPM(東京 9/7)→残念ながら行けませんでした・・・
  • 日本心理学会第78回大会(京都 9/10-12)ポスター発表:聴覚障害者・コーダのストループ干渉について
  • 日本特殊教育学会第52回大会(高知 9/20-22)ポスター発表:人工内耳装用児の音楽聴取について
  • 北陸心理学会第49回大会(金沢 10/18)口頭発表:特性的自己効力感と代理強化について
  • 日本ポジティブサイコロジー医学会 (東京 10/26)ポスター発表:ポジティブ日記に
  • 日本行動療法学会(富山11/1-3)ポスター発表:ポジティブ日記について
  • 日本教育心理学会第56回総会(神戸 11/7-9)ポスター発表:対人不安とアプリについて
  • ATAC(京都 12/5-7)

子育て研究

日本子育て学会から刊行されている学術雑誌「子育て研究」に論文が掲載されました。

この研究では, 生まれつき「聴こえない」子どもが「聴こえる」親のもとで成長する過程にはどのような問題があるのか,また,「聴こえない」子どもは「聴こえる」親のもとで自らのアイデンティティをどのように作り上げていくのか,インタビュー調査を通じて検討しました。その結果,子どもに障害があろうとなかろうと,子どもが健全に心を育むために必要なのは親との健全な関係であるという結論を得ました。

個人的には,これまでまったく未知の世界であった特別支援教育や聴覚障害の領域において,はじめて取り組んだ研究であります。また,インタビューという研究手法や,質的分析というデータ分析方法もはじめての経験でした。はじめてづくしの研究であるため,私の勝手な思い込みや間違った記述があるかもしれません。非常につたない研究でお恥ずかしい限りですが,ご高覧いただければ幸いです。

荒木友希子 2014 障害のある子が育つということ ー幼児期に人工内耳埋め込み手術を施行した聴覚障害児の事例から考えるー 子育て研究, 4, 20-31. 子育て学会荒木

「心理学の諸領域」に論文が掲載されました

最近はfacebookを利用することが多く,そちらで情報発信したつもりになってしまい,こちらは11月1日にして2013年度はじめての投稿になってしまいました。申し訳ありません・・・

先日,一昨年の卒業生の卒論データを再分析してまとめた論文が「心理学の諸領域」第2巻に掲載されました。学長奨励研究費の助成を受け,学生さんががんばって調査データを集め,学習性無力感実験をおこなった卒論研究です。実験結果について,ああでもない,こうでもないといろんな角度から何度も分析を重ね,有意な差がでた時には,研究室にいたみんなで思わず拍手をしてしまった記憶があります。その学生さんは就職されましたが,なかなか面白い結果が得られていたため,学術論文の形にまとめることができたらいいのにな,とずっと考えていました。すでに卒業されていた学生さんから無理をいってデータを送ってもらい,分析し直し,なんとか形にすることができました。これでやっと私も彼女のデータからすっきりと卒業することができた思いです。ちなみに,「心理学の諸領域」は私が長く事務局を担当している北陸心理学会が刊行している雑誌です。内輪のものになってしまいますが,査読もしっかりしたもので,大変勉強になりました。データを形にすることは大事だと改めて感じました。

荒木友希子・山口瞳 2013 数学に対する苦手意識が計算問題における学習性無力感現象の生起に与える影響 心理学の諸領域, 2, 29-37.

認知科学シンポジウムで発表しました

2013年3月7日から8日,金沢大学角間キャンパスにおいて金沢認知科学シンポジウム2013が開催されました。私は,以下の研究について報告しました。学長奨励の助成を受けた3年生の学生さんと一緒に考え,いろんな人の協力を得て,彼が筑波まででかけてデータをとってきた研究です。今回,発表用にデータを再分析してみて,手話の開始時期がきわめて早い人は,音韻ループを使用していないために認知的情報処理の仕方が特異的であることが分かりました。今回のストループ課題はひらがなでしたが,漢字の場合はきっと結果が異なるのではないでしょうか。今回得たサジェスチョンを今後の研究に生かしていきたいと思います。

「聴覚障害者の視覚的認知機能 —ストループ課題を用いて」

 本研究では,先天性聴覚障害のある大学生(聴覚障害群)および健聴の大学生(健聴群)各31名を対象に、新ストループ課題2を実施し,視覚的認知情報過程で生じるストループ干渉および逆ストループ干渉の程度について検討をおこなった。その結果,聴覚障害群は,健聴群と比較し,逆ストループ干渉がより強く生じた。ストループ干渉については群間に差はみられなかった。また,聴覚障害群の中でも幼児期から手話を使用していた人は,青年期に手話の使用を開始した人と比べて,ストループ干渉がきわめて小さいことが示された。

北陸心理学会第47回大会で発表しました

先週末、金沢大学サテライトプラザで開催された北陸心理学会第47回大会で、昨年度山口瞳さんがおこなった卒業論文の研究結果について、口頭発表をおこないました。この研究では、学習性無力感実験のパラダイムに基づき計算問題を用いた集団実験をおこない、数学への苦手意識が高い人は学習性無力感に陥りやすいのではないか検討をおこないました。結果としては、学習性無力感パラダイムに基づいた統制不可能性よりも、苦手意識の強さの方がより遂行成績の低下に影響を与えていることが分かりました。苦手意識の強い人ははじめから無力感状態であった、ともいえます。ディスカッションでは、遂行成績に影響を与えているのは苦手意識と計算能力のどちらであるのか分かるような仕組みで実験をおこなった方がよいのではないか、という貴重なサジェスチョンをいただくことができました。同じ入試を突破した大学生という意味で能力の差はないと思い込んでいましたが、確かにその通りだと思いました。一人で考えていては気がつかなかった視点でした。学会発表は毎年継続してやらないといけないと改めて実感しました。この学会で示唆を与えてくれるのはいつも心理学研究室の先輩方や指導を受けた先生です。偉大な先輩方に感謝です。

荒木友希子・山口瞳 2012 数学への苦手意識が計算問題の遂行成績に与える影響 北陸心理学会第47回大会発表論文集、58-59.

(金沢大学サテライトプラザ、2012,10,27)

論文が掲載されました

8月末にまとまった休暇をとってから久しぶりに出勤すると、たくさん届いていた郵便物の中に「健康心理学研究」があるのを発見しました。もしかして私の論文が載っているかも、とドキドキしながらページをめくっていくと、ありました! 久々の(恥ずかしながら数年ぶりの)論文掲載です。はじめていただいた科研費でおこなった研究で、第一子育児休業明けの復職初年度の年度末に、唾液中アミラーゼという生理的指標をはじめて用いて、約100名の学生さんにご協力いただいてすべて一人で実験をし、何度もリジェクトされながらも粘り強く投稿し続けた、という非常に思い入れの強い研究です。長期に渡る査読者とのやりとりも大変でしたが、振り返ってみるととても勉強になった貴重な機会でした。しかし、論文にまとめていないデータはまだまだたくさん手元にあります。頑張って論文の形にせねばという思いを新たにしました。非常につたない研究でお恥ずかしいですが、お目通しいただければ幸いです。

荒木友希子 2012 学習性無力感パラダイムを用いた防衛的悲観主義に関する実験的検討, 健康心理学研究, 25, 104-113.

家庭裁判所調査官のためのペアトレ

先日、金沢家庭裁判所において、家庭裁判所調査官を対象とした研修会を担当しました。発達障害が疑われる少年が多いため、ペアレント・トレーニングについて話をして欲しいというご要望でした。実際に調査官がペアトレをおこなうわけではなく、数回の面接で保護者に関わる中で何か行動分析らしい助言ができるようにはどのような内容を用意したらよいのか、かなり悩みました。最終的には、非行と発達障害、ペアトレの概要、ペアトレの基盤となる学習理論(強化、機能分析)、といった内容についてお話してきました。ある調査官の方からは、「罰する」という枠組みの中で、プラスの関わりを持とうとするのがいかに難しいことであるか、教わりました。同じ事柄でもプラスの面からもマイナスの面からも見ることができるため、できるだけプラスの面に注目できるといいですね、とお話しましたが、現場では難しいだろうなあと感じました。そして私はもっと現場を知ることが必要だと改めて自覚しました。

今回の研修会は、私が院生だった十数年前に知り合った調査官の方からのご依頼でした。十数年ぶりにお会いできて、非常に懐かしく、人とのつながりは時間が経っても変わらないものだと嬉しく思いました。お互いに母親となり、育児と仕事を抱える立場となっていることも 、月日の流れを感じさせました。帰り際に「今日うちに帰ったら、さっそく子どもを褒めてみます!」とおっしゃってくださったことが嬉しかったです。