2.専門分野

私の専門分野は「心理学」です。「心理学」という言葉から皆さんは何を連想するでしょうか。心理学ときいてカウンセリングや臨床心理士のことを連想 したり、 心理学を学んだら人の心を見抜けると考えたりするかもしれません。実際には、心理学は非常に幅広い領域を包括した学問です。たとえば、私が所属する心理学 の学会は、日本心理学会、日本教育心理学会、日本健康心理学会、日本発達心理学会、日本パーソナリティ心理学会、日本行動療法学会、といったようにその名 称は多岐に渡っています。その他にも、実験、認知、動物、音楽、生理、社会、文化、産業、矯正など様々な単語が心理学という言葉の前につくのです。このよ うに心理学という学問が多種多様な領域から構成されているということは、人の心が非常に複雑であることを如実に物語っています。心理学を学んだら人の心を 見抜けるというものではなく、心というものは様々な角度から多面的に光を当てて探索する必要があるのです。

頑 張りたくても頑張れない。一生懸命やればできると分かっていてもやる気がおきない。何をやっても駄目だと思ってしまう。このような状態に陥っている生徒や 学生に対してどのように援助すればよいのか。こういった観点から、私は悲観主義や無力感に関する実証的研究をおこなっています。アメリカで提唱された学習 性無力感理論によれば、“どんなに頑張っても自分の行動は成功に結びつかない”という経験を何度も繰り返すと、“次もまたうまくいかないだろう”と予測す るようになり、その結果、本来は簡単に解けるはずの易しい課題や状況でもうまくやれず、感情や動機づけにも問題が生じ、無気力な状態に陥ると説明されま す。この理論はイヌの実験から始まったもので、その後人間を対象に数多くの実験研究や調査研究がおこなわれており、教育場面や臨床場面においても理論の適 用が試みられています。

世の中には同じような失敗をしてもひどく落ち込む人もいればまったく落ち込まない人もいます。私は、成功や失敗の原因をどのように考えるかという原 因帰属 の仕方、思考の柔軟性、ストレスへの対処方法といったものが無気力な状態の改善や予防に対して非常に重要な意味を持っているのではないかと考え、学習性無 力感理論をもとにこれらの要因を中心として研究を続けています。実験手法を工夫したり、生理的指標を用いたり、幅広い年齢層を対象に調査をしたり、アメリ カと日本の文化の違いを比較したり、多角的視点と研究方法をあれこれ用いて人間の無気力な状態に迫ります。しかし、人間はこの理論のように単純明快に説明 できる存在ではありません。理論を用いて説明できることとできないことを明確に区別し、認識する必要があります。ひとつひとつの研究からいえることはほん の些細なことかもしれませんが、些細な知見を着実に積み重ねていくことが無気力な状態に陥っている人を救う手だてのひとつになると信じて研究しています。

主な研究領域

  • 臨床心理学
  • 健康心理学
  • ポジティブ心理学

主な研究究課題

  • 学習性無力感理論および防衛的悲観主義概念の教育・臨床場面への適用に関する実証的研究
  • 障害のある子どもを授かった親の障害受容について
  • 障害のある子どものアイデンティティについて
  • 子どもの心とコミュニケーションの発達について
  • ポジティブ感情の機能と認知に与える影響について

キーワード

学 習性無力感,原因帰属,動機づけ,ストレス,抑うつ,認知の柔軟性,対処方略,自己効力感,統制感,随伴性認知,防衛的悲観主義,ポジティブ感情,唾液ア ミラーゼ,コミュニケーション,障害受容,発達障害,聴覚障害,人工内耳,認知行動療法,アサーショントレーニング,筋弛緩訓練,ペアレントトレーニング