巷にはポジティブ思考を推奨する本があふれています。ネガティブなことを考えるのは良くない,ポジティブなこと考えるのは良いことだ。このような思い込み,先入観がまかり通っています。しかし,本当にそうなのでしょうか。
重 要な試験を控えて,想像できるあらゆる失敗やアクシデントを予想し,ネガティブなことをくよくよ考え込んでしまう。失敗を恐れるからこそ,高い不安を動機 づけとして一生懸命試験勉強をおこない,結果としていつも良い成績をとることができている。このような経験のある方は日本人には多いのではないでしょう か。このようにくよくよ考え込むことによって高いパフォーマンスを維持している人を,アメリカの心理学者ノレムは防衛的悲観主義者と呼びました。くよくよ 考え込むのがその人の対処方略となっている場合,そのような人に無理矢理ポジティブ思考をすすめてもうまくいかないことが実証されています。防衛的悲観主 義という考え方は,誰もがポジティブ思考をとればよいわけではないこと,その人にとって最もふさわしい対処方略というものがあること,その人がどのような 人なのか見極める必要があることを教えてくれます。
アメリカにはポジティブ思考を推奨する傾向が日本よりも強く,文化として存在します。そのようなアメリカにおいて,ネガティブ思考を否定しないこの考え方は とてもユニークで大きな注目を集めました。私は,日本でもこの防衛的悲観主義という考え方が通用するか,研究をおこなっています。
主な論文
- 荒木友希子 2008 日本人大学生を対象とした学業達成場面における防衛的悲観主義の検討 心理学研究, 79, 9-17.
- 荒木友希子 2012 学習性無力感パラダイムを用いた防衛的悲観主義に関する実験的検討, 健康心理学研究, 25, 104-113.